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研究紹介

東京科学大学耳鼻咽喉科は、スタッフ全員がクリニシャン・サイエンティスト/サイエンティフィック・クリニシャンとして、リサーチマインドを持ちながら診療に当たっています。特に耳科学の分野では、病態の解明と治療につながる基礎的研究から先端的医療技術の開発に至るまで幅広い研究活動を行っています。これまで多くのスタッフが米国国立衛生研究所聴覚伝達障害部門やミネソタ大学などの海外留学を経て、現在本教室での研究ならびに大学院生の指導にあたっております。代表的な研究テーマをご紹介します。

姿勢制御の仕組みと平衡障害の病態解明

ヒトは地球上の1G環境下において、視覚入力と耳石器入力(耳での加速度感知)、体性感覚入力(四肢や体幹での重力感知)の3つの感覚入力を使って重力を感じ取り、脳内に重力認知座標を構築して運動出力をしています。この耳石器での重力感知や脳内での重力認知座標構築の機能異常は「ふらつき」を起こします。慢性的なめまいを起こす種々の疾患に加え、超高齢化社会における高齢者のふらつき・転倒に対する予防医学的介入のためには、この「ふらつき」を定量化する必要があります。我々は現在ヒトの眼球運動を三次元解析することにより、耳石機能・重力認知機能を定量化する研究を行っています。これにより、慢性めまいに起因するQOL低下への対応や、高齢者の転倒予防による認知症への進行予防が可能となります。
また、3次元内耳モデルを用いた内リンパ流動のシミュレーションや、温度刺激検査を応用し中枢性や末梢性前庭障害での前庭眼反射のシステム特性を解明する試みを行っています。

  • ヒトの眼球運動3次元解析
  • マウスでの眼球運動解析
  • 温度刺激検査における内リンパ流動シミュレーション
  • 温度刺激検査の変法を用いた
    前庭眼反射の動的解析
    (Honjo et al. Front Neurol, 2020)

臨床研究 :難治・希少疾患における聴覚平衡覚障害の合併

患者数が非常に少なく有効な治療法が存在しない難病(難治性疾患)を、希少疾病と言います。厚生労働省はこの希少疾病を「対象患者数が本邦において5万人未満であること」と定義しています。このような希少疾患は多数報告されていますが、多彩な症状を呈することも多く、診断が遅れたり、診断が難しかったりすることもあります。適切な治療の選択にも高度な知識が必要ですが、本学には稀少疾患の先端医療にあたる専門医師が数多く在籍しており、領域を超えた連携診療を行っております。当科はそれらの中で聴平衡覚障害を合併する疾患を数多く診療しており、標準的な治療にとどまらず、常に先端的治療への展開を試みています。

疾患モデルマウスを用いた聴覚平衡覚障害の病態解明

当教室にはこれまでに日本人を対象にして多くの難聴遺伝子の検索を行った経験があり、たくさんの学会発表と著明な国際誌への投稿をしてきました。これらの難聴遺伝子のいくつかに関して、基礎研究グループは遺伝性難聴モデルマウスを作成して、その機能障害の機序およびメカニズム解明を進めています。マウスは原因遺伝子とその変異による障害がヒトとよく近似しており、これらの研究成果を臨床へと応用できるよう、さらなる研究モデルを開発しています。

  • マイクロCTを用いたペンドレッド症候群モデルマウスの迷路骨包と耳石形態 (伊藤他:Equiliburim Research, 2020)
  • マウス内耳血管条とマクロファージ(CD68 / CD34)(Ito et al., Neurobiology of Disease, 2014)
  • メカノトランスダクションチャネルを有する有毛細胞に選択的に進入する蛍光標識アミノグリコシド系抗菌薬とFM色素

手術支援機器Extended reality(仮想現実VR・拡張現実AR・複合現実MR)を利用した解剖学実習、および手術支援

外科医を志すものとして解剖学の知識は必須であり、どのような手術であったとしても各臓器の立体的な位置関係を把握することは極めて重要です。しかし、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域は眼窩・頭蓋底など解剖学的に複雑な領域が多く、様々な重要神経・血管が固い骨の中を密集して走行しており、十分な習得のためには多くの手間と長い年月がかかります。当科は全国で最も早く側頭骨模型を用いた解剖学実習を開始した教室であり、毎年開催されている日本耳科学会の側頭骨削開実習の先駆けとなりました。

  • 第19回日本耳科学会総会・学術講演会での側頭骨削開実習(伊藤卓:新医療、2020)

さらに現在では、Virtual Reality(VR)技術を用いてHead-mount displayで仮想空間内に自分で作成した3Dモデルを投影して、コンピューター上で再現することが可能となったことから、手術トレーニングおよびシミュレーションのために、Extended reality(仮想現実VR・拡張現実AR・複合現実MR)を利用した解剖学実習も行っています。本システムを手術支援器具として利用することも考えて、さらなるシステムの開発を進めています。

  • Extended realityによる手術シミュレーション

ナビゲーションシステムには光学式と磁場式が現在汎用されていますが、当院手術室には両者が配備されており、手術手技や病変の広がりに応じてそれぞれ利用されています。さらに当院には移動型CT撮影装置O-armも設置されており、本システムと光学式ナビゲーションシステムを連動させて自動ナビゲーション手術を行うことも可能です。本システムでは自動でレジストレーションが行われるため人為的なエラーが起こる可能性がほぼなく、極めて高精度のナビゲーションが可能となっています。